心拍数 Vol.214

「最も人を感動させられる楽器は人の声だと言われます」

小学校の夏休みに
合唱の練習をしていた時に先生がこう言った。


"第九"は
合唱のある第4章でクライマックスを迎えることから
今日はこの言葉を思い出していた。



会場に着くと
ホールの席は
真ん中から後ろにかけてが
すでに埋まっていた。
前の方へとのことで
歩いていくと
2列目が空いていた。

少し前過ぎるかなと思ったけれど
「こんな機会はなかなかないだろうし」。。と
前から2列目の席に座った。
こんなに前で演奏を聴くのは初めてだ。


その席は
運指までもがよく見えて
演奏者と目が合いそうな近さだった。

フレーズのパート移動や掛け合いを
目の前で見ていると
自分も演奏に参加しているような気持ちになった。

そして
あまりの近さから
その音色を誰が奏でているのかも
聴き分けることができた。


"第九"は各パートに見せ場がある
素敵な曲だな。


第3章が始まると
コンマスと第1バイオリンの音色に
ふと涙がこぼれそうになった。
心に響き、体が反応する
音。


あれ?
人を一番感動させられる楽器は
人の声ではなかったのか。。。


コンマスを務められた先生は
今日は市民楽団だから
人一倍大きな音を心がけていたのだろうか。
演奏中
みるみるうちに弓毛が切れていくのが見えた。



第4章になると
演奏者の表情から抑制が消え
ただ聴いているだけなのに
鼓動が高まるのを感じた。


名作はひとり歩きを始めるものだ。

"第九"はもう
だいぶ前からベートーベンのものではなく
それを奏でる人々のものだったのだろう。


"第九"を奏でるためだけに集まった人々
楽譜は同じだとしても
もう二度と同じ演奏はない。
この日、この時だけのものだ。



今日
一瞬の奇跡に居合わすことができて
しあわせだった。



Ki・Ma・Ma いつもの日々 with camera

ANTIQUE × Camera 変わらないのがいい、いつもの日常。