図書館のカウンターの横、大江健三郎特集の前面に立てかけてあった本を、まるでお店のレジ横にあるお菓子を衝動的に手に取るように借りてきた。
こんな借り方をしたのは初めてだったので自分でも不思議だった。
建物を出たところで待てずにページをめくると、「3.11後」という文字が目に飛び込んできた。そこに登場するのはテレビで東日本大震災の番組を観たあとに「ウーウー声をあげて泣く」主人公の小説家。雑誌への初出は2012年だ。
「これは私小説ではない」と明言されているという本書だが、あえて作家本人を想起させる主人公が現実に向き合う姿に「なぜ今読まなければと思ったのだろう」という想いの答えを見たようだった。
文章を作成する仕事をしていると必要な情報の調査ばかりになってしまい、自分が本来好きなものやインプットに費やす時間や脳の容量がなくなる。
「この本を読む時間てあるの」と思いながらも、積極的にズル休みをするようにページをめくってみる。
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